今年度より毎日新聞社主催による35歳以下の優れた若手画家を顕彰する「絹谷幸二賞」が創設されます。きっかけは、2008年2月、コロンビアの日本大使館の依頼で、同国を代表する画家・彫刻家、フェルナンド・ボテロさんの名を冠した美術コンクール「ボテロ賞」の選考委員を務めたときに、こんな形で若い人を支援していきたいと思ったことに始まります (「2008年2月 ボテロ賞審査委員のためコロンビアへ」 アート・トップ 2008年5月号掲載)。
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(1974年 安井賞受賞作品 「アンセルモ氏の肖像」)
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■関連記事
・絹谷幸二賞:創設 本江邦夫さん、遠藤彰子さん対談 (転載、出典 2008年11月17日 毎日新聞)
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■以下、転載、出典 2008年9月23日 毎日新聞朝刊
特集:絹谷幸二賞創設 具象的傾向の絵画、35歳以下を顕彰 若者の冒険を後押し
35歳以下の優れた若手画家を顕彰する「絹谷幸二賞」が、今年度創設されます。日本を代表する画家の一人、絹谷幸二さんの協力を得て、毎日新聞社が主催します。毎日新聞社は過去に、具象的傾向の作家の顕彰を目的とする安井賞(別稿参照)を主催しており、安井賞受賞者でもある絹谷さんから賞創設の提案を受け、賛同しました。本賞は、表現の原点ともいえる「具象絵画」の意味を改めて問い直す目的も負っています。選考委員は、絵画の本質に迫る活動を展開している3人が務めます。絹谷さんの思いと、選考委員のメッセージを紹介します。【岸桂子】
◇具象の意味とらえ直す好機に
● 賞創設を考えたきっかけは。
[絹谷] 自分自身の経験も影響しています。私は31歳で安井賞を受賞しました。当時は、絵の具とキャンバスさえあればいいと思う一方、結婚して子供を授かった時期。生計もたてなきゃいけない。でも現実は、諸先輩から「君のような絵で生活するのは大変だ」などと言われてばかり。それだけに受賞は「今後も頑張って絵を描けばいいよ」と背中を押されたような、最高の励ましでした。
● 一線で活躍中の芸術家の名前を冠する賞は珍しいです。
[絹谷] 確かに、日本の芸術賞に冠された個人名は、ほとんどが故人。日本では、売名行為と思われかねない面があるかもしれません。しかし、ボテロさんは現在も活躍している作家。この国で例がなくても、今の自分にできるなら、すぐにでもお役に立ちたいと考えました。
大学教員としての仕事が、あと2年を切ったこともあります。その後の若い人たちの支援方法をずっと考えてきました。ご批判は甘んじて受け、とにかく動きだそうと。
● 絹谷さんは推薦・選考には一切関与しません。
[絹谷] 賞の公平性を保つためには当然のこと。私は名前を貸して、お金を出すだけ。ボテロ賞もそうです。
● 賞の対象は、具象的傾向の絵を描く35歳以下の画家です。
[絹谷] 大学や大学院に在籍している時は、水槽に限定された息苦しさがある半面、安心感もある。大海に放たれた時がつらい。私のように悩む人も多いでしょう。でも、若さゆえの冒険ができるこの世代に頑張ってほしい。もちろん、うんと若い人が受賞する可能性もありますけどね。
● また、かなり厳密に絵画の原点にこだわりました。絵画、特に具象系絵画を取り巻く現在の状況をどうみていますか?
[絹谷] アジア地域を対象にした公募賞の選考などをしてきた経験から言うと、日本の絵画部門が退潮期に入っている気がします。若い人は、抽象絵画より具象に取り組む人の方が多いですが、総じて遠くから見ると、違いが分からない。
絵画という二次元は、現実の空間ではありません。文字通り「絵に描いた餅」の世界。だからこそ、イマジネーションによってどこまでも深めることができます。対象をそっくりに描くだけが具象ではないのです。たとえば、私は仏様を描いた作品がありますが、その絵が意味するのは「宇宙」です。
また、世界中の人々がひと目で理解できる、言葉が不要な表現が具象絵画ではないでしょうか。賞を通して具象の意味を考え直せたらとも思います。
● 安井賞は洋画が対象でしたが、絹谷幸二賞は、いわゆる日本画も含まれます。
[絹谷] 私自身がそうですが、洋画に区分される世界で、岩絵の具を使う画家はいます。賞の意味は具象の意味をとらえ直すことであり、絵の具で区別する必要はないでしょう。
● 賞への期待を。
[絹谷] 有史以来、人間が手を動かして何かを描くことは、飽きもせずに続いてきました。今はコンピューター上で何でも表現が可能になりましたが、こんな時代だからこそ、数値に置き換えられない絵画のありようが問われています。時代を切り裂く作品に、賞を与えていただければと願っています。
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■選考委員
◇本道とは何か、新しい表現を--多摩美術大教授・本江邦夫さん
現代は、人間が人間であることを見直すべき時期にきています。それは、ネット上の仮想空間に対し、つねれば痛い人間の肉体を確認し手わざにこだわるという意味です。
絵画においては、具象表現が重要になります。人間世界を超越する抽象に対し、目に見えるもの、心身で感じるものをどのように具体的に表現するかが問われているからです。一方で、若手の絵画の中には、商業的にちやほやされるため、エロ・グロで安直な具象表現が横行しています。具象の本道とは何か。私たちに教えてくれるような、新しい表現を期待しています。
◇立ち会いたい、時代の象徴--国立国際美術館主任研究員・中井康之さん
人類の活動と共に、「絵画」は在りました。絵描きは、人類最古の職業のひとつと言えるでしょう。それぞれの時代に、人々は生きた証しを残すかのように「絵画」を描いてきました。
いま、この時代を象徴すると言えるような「絵画」をわれわれは切望しています。もちろん、時代を凌駕(りょうが)する、あるいは時代を先取する「絵画」であっても良いでしょう。われわれはその「絵画」と共に生きた、と言い切ることができる奇跡と立ち会えることこそを、喫緊の要事としたいのです。
◇身体性、どう的確に用いるか--画家・福田美蘭さん
日本に生きて、生活していることが、画家の独自性、表現の本質につながらないといけないと私は考えています。世界に目を向けることも大切かもしれませんが、空間、時代、国による私たちに共通なものを、どのように考えているのか。そして、その表現が作品のメッセージとなっているのかが重要です。
また、デジタルイメージがあふれて、我々の感情も変わるにつれて、絵画自体も変容しつつある今、「身体性をいかに的確に用いるか」が、絵画の当面の課題となります。この問題にどこまで自覚的になっているかを見極めようと思います。
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■絹谷幸二賞の概要
◇対象
当該年の12月末日現在、満35歳以下の画家。国籍は問いません。
当該年(1月~12月末日)に日本国内で開催の展覧会に出品された「具象的傾向の絵画」に限定します。筆またはそれに準じる画材・身体を用い、紙やキャンバスなどに描いた絵画を基本とします。
◇主催
絹谷さんの資金協力を受け、毎日新聞社が主催して運営します。
◇選考方法
毎日新聞社が、若手画家の創作活動を継続的に追っている美術館学芸員や評論家、ジャーナリストらに推薦を依頼します。リストをもとに、3人の選考委員が、来年1~2月に2度の審査を経て受賞者1人を決定します。
◇発表
来年2月下旬(予定)、毎日新聞紙上で。贈呈式は同3月、東京都千代田区の学士会館で行います。受賞者には賞状と賞金100万円が贈られます。
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◇安井賞
洋画家、安井曽太郎(1888~1955)の画業を顕彰し、安井の画風から「具象的傾向」の作品を描く優秀な新人の登竜門として1957年に創設。画壇の芥川賞とも呼ばれた。97年(96年度)に、40回をもって終了。
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■人物略歴
◇きぬたに・こうじ
1943年奈良県生まれ。東京芸術大大学院修了。留学先のイタリアで、アフレスコ画という古典壁画技法を研究した。同技法による色鮮やかな絵画表現に取り組み、74年に史上最年少(当時)の31歳で安井賞を受賞した。89年毎日芸術賞、01年日本芸術院賞。東京芸大教授、日本芸術院会員、独立美術協会会員。現在、高島屋で個展が巡回中。
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■人物略歴
◇もとえ・くにお
1948年愛媛県生まれ。東京国立近代美術館勤務を経て98年より現職。01年から府中市美術館長。専門は近現代美術。美術評論家としても活躍している。著書に「オディロン・ルドン」(芸術選奨文部科学大臣新人賞)、「絵画の行方」、「現代日本絵画」など。
◇なかい・やすゆき
1959年東京都生まれ。兵庫県の西宮市大谷記念美術館学芸員を経て現職。専門は近現代美術。主な展覧会の企画に「もの派-再考」(05年)、「アヴァンギャルド・チャイナ」展(08年)など。05年、第11回インド・トリエンナーレ日本側コミッショナーを務めた。
◇ふくだ・みらん
1963年東京都生まれ。東京芸術大学大学院修了。89年、第32回安井賞を最年少の26歳で受賞。歴史的名画を題材に、批評性とユーモアを交えながら「絵画」のありようを問うシリーズや、現代社会を鋭くあぶりだす作品を発表している。
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毎日新聞 2008年9月23日 東京朝刊。