天満屋創業180周年記念巡回展-絹谷幸二の世界展

 このたび、絹谷幸二・新作個展を天満屋創業180周年記念の一環として開催させていただきます。

今展では、瀬戸内・山陽・山陰取材によるモチーフを含めた、意欲的な作品を展示予定です。

2009年8月26日産経新聞掲載『アートな匙加減』より

古代の夢たどる旅

 

 この夏は都会の喧騒を逃れて、京都を出発地点に琵琶湖の長浜から竹生島、天橋立、瀬戸内海、そして出雲、大山という地図を8の字に回る長いスケッチ旅行に出た。歴史と文物の宝庫、山陰山陽の魅力は、その地に住む人々のまなざしとともにすべてが輝いてまばゆく、感動的であった。

 ことに旅の始め、滋賀県高月町の渡岸寺で出合った国宝、木造十一面観音立像からは、筆舌に尽くしがたい衝撃を受けた。美しい。そのお姿は、湖畔を渡る微風が半歩踏み出す足下の衣をなで、前面に身を移そうとする刹那、右かかとが一瞬浮く、その瞬間をとらえている。

 同時に体はわずかに左右にしなり、その電磁波が心に伝わり、慈悲の発心をとらえているその見事さ。圧巻である。イタリア・ルネッサンスの父、ジョットーが中世の硬直する教会に、新風を送り届けたのと同様以上の強い意志や「気配」が伝わってくる。「前に」「動き出せ」「むさぼるな」「描け」「発想しろ」と仏は私に自愛を持って語りかけてくる。

 竹生島には長浜から舟で渡るが、ここは鳥たちが住む世にも不思議な杜である。島は改定100メートルから直立し、琵琶湖で最も深い湖北にある。東に迫る湖崖の底は、広大な範囲に縄文土器がほぼ無傷のまま出土する。葛籠尾崎湖底遺跡が現存し、しかも湖底には大型の淡水魚が生存しているという。

 

 私も芸大の同僚の先生から釣り上げたサケの写真を見せてもらったことがある。もしや、春立つころ、奈良二月堂のお水取りの水が、あの十一面観音の長すぎる右手が指し示す地中深く、若狭の国から流れてくるというのは事実ではないか、というロマンが頭を駆け巡った。

 琵琶湖の水面の高さが大阪城の鯱(しゃちほこ)の高さと同位置と聞けば、100メートル下のどこかで大和の国に入る地下水路があったとしても不思議ではない。夢は膨らみ、古代の夢をたどりながら天橋立に向かった。橋立では、雪舟の目線の立ち位置で、現在の私ならこのように描くのだ、という勝負かなわぬまでの思いで目の前の風景と対峙する。しばらく描き続けた疲労の後、伊根の船宿を回り山陽道を下る。

 師走9日、天満屋岡山店で開催する新作小品展の取材を倉敷から始めた。中学2年生のころ、一人夜行列車に乗り、訪ねた林武先生の「梳る女(くしげずるおんな)」と再会し、画家となる思いを募らせた青白き若き日のことを回想した。「私を林先生のおられる芸大に導いたのはこの絵の女性ではなかったのか」と…。

 倉敷の児島から広島の鞆(とも)の浦で写生をするが、この美しい港に無粋な橋を架けるという。橋の建設に反対する署名に家族ともども喜んで署名する。広島では早朝、原爆ドームで黙祷し、江田島を訪れた帰路、日本の兵士たちが出港した宇品港で夕日が炎々と瀬戸の海を染めるのをフェリーボートからしみじみと見つめた。

 

 取材の旅はその後、石見銀山、神々が集う出雲大社、大山と長々続くが、過ぎし日のことも含めてすべての出来事が私の描く画面の中に一つでも描き出されれば、画人として望外の喜びだ、と心の中に秘めて思うのだった。

 

 

≪会場ご案内≫

天満屋 岡山本店(http://www.tenmaya.co.jp/okayama/index.html

会期:2009年12月9日(水)~12月12日(火)

 

天満屋 高松店(http://www.tenmaya.co.jp/takamatsu/index.html

会期:2010年1月2日(土)~1月12日(火)

 

天満屋 米子店(http://www.tenmaya.co.jp/yonago/index.html

会期:2010年1月19日(火)~1月25日(月)

 

天満屋 福山店(http://www.tenmaya.co.jp/fukuyama/index.html

会期:2010年2月16日(火)~2月22日(月)

 

天満屋 広島店(http://www.tenmaya.co.jp/hacchobori/index.html

会期:2010年3月3日(水)~3月9日(火)

 

 

 

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