第2回絹谷幸二賞 【岸桂子】(毎日新聞 2010年3月7日 東京朝刊)

特集:第2回絹谷幸二賞 絹谷幸二賞・大谷有花さん/奨励賞・小沢さかえさん

 若手画家を応援し、具象絵画の可能性を開くことを目的にした第2回絹谷幸二賞(毎日新聞社主催、三井物産協賛)の受賞者は、神奈川県相模原市の画家、大谷有花(ゆうか)さん(32)▽奨励賞は京都市の画家、小沢さかえさん(29)に決まった。贈呈式は17日、東京都千代田区の学士会館で開かれる。【岸桂子】

 ◆絹谷幸二賞

 ◇秘められた強さ--神奈川県相模原市、画家・大谷有花さん

 昨年秋、東京・有楽町の第一生命ギャラリーで開いた個展「life」。矩形(くけい)のキャンバスに、見開きにした本を描いた同サイズの作品を11点並べた。「四角に四角」の組み合わせ、実は相当難度の高い技。画面が凡庸になる危険性をはらんでいるのだ。

 「確かに、黒い枠を描くと平面的になってしまう。絵を邪魔しない文字の加え方も苦労しました」。「でも、難題はいつもあります。クリアするたびに新しい課題を得て、反映させてきたつもり」と、今回も果敢に攻めた。結果、分厚い本を見開いたしなり感を絶妙に構築。人間賛歌の思いを、透明感あふれる色彩で表現することに成功した。

 作品は、トレードカラーの黄緑色やピンクで彩られる。想像上の動物「ウサギねずみ」も登場して、一見、甘い雰囲気が漂う。しかし、独特の透明感は、絵の具を直接ブラシに絞り出し、キャンバスをしごくように幾重にも塗り込めてできあがる。「個展の前には力こぶが一つ増えるほど」という。

 好きな画家は、戦前・戦中に独自の幻想世界を描いた早世の画家、靉光(あいみつ)。「絵の雰囲気は違うと思いますが、絵に込めた生命力や、表現したいものに対する思いの強さは共通しています」ときっぱり話した。

 ◆奨励賞

 ◇明るさとせつなさ交錯--京都市、画家・小沢さかえさん

 丁寧に油絵の具が塗り重ねられ、モチーフ同士が溶け合うような不思議な画面。「ずっと泣きたかったんだ」など、想像力をかき立てる作品タイトルも魅力的だ。昨年、京都市の「MORI YU GALLERY KYOTO」で開いた個展「珠玉のポエジー」の作品群が評価された。「候補に挙がっただけでうれしかったのに。素直に喜んでいます」

 転機はウィーン留学。「日本は情報が多すぎる。違う世界に身を置いてみたい」と海を渡った。しかし、思うように意思疎通をはかれない。「いい絵を描くことだけが、早く認めてもらえる道」と覚悟を決めた。

 一番影響を受けたのは「暗くて寒い、救いようのない冬」という。

 「嫌でも自分に向き合い、深い所に下りていく感じ。でも、それがあったから描けたのかも」

 心の奥深くで醸成された物語や欧州の自然、不安な感情がない交ぜになり、明るさと切なさを感じさせる絵画が誕生した。

 個展の作品群は、帰国後に京都で描いた。「ストレスがなさ過ぎて困りましたが(笑い)、視覚的な快感を追求できた」と振り返る。

 「肩の力がいい具合に抜けてきた」ころの受賞。5月に東京のギャラリーで個展を控える。新たな展開が期待できそうだ。

 ■選考過程

 ◇対象は26人に

 43人に推薦依頼を発送。27人から回答を得て、選考の条件を満たした22~35歳の26人を選考の対象にした。

 候補者にポートフォリオ(経歴や作品写真をまとめたファイル)を送ってもらい、事務局が選考委員3氏に郵送。選考委員はあらかじめ全冊を精査し、選考日までに鑑賞可能な作品は、個展などに足を運んでもらった。

 1次選考は、1人10票で候補者を絞り込んだ後、各候補者の構成力や表現力などについて議論。再度の投票で、大谷、小沢、樫木、小西、篠原、傍島、千葉、原の8氏が2次選考に進んだ。8氏の作品を未見の選考委員は、出展作の一部を見るために各候補者の自宅やギャラリーなどを訪問。全候補者の作品を確認したうえで2次選考に臨んだ。

 2次選考は、最初の投票で大谷、小沢、篠原、傍島の4氏に絞り込んだ。篠原作品は強度を感じる、傍島作品は描くモチーフに説得力があるなどの評価があった。一方、ポジティブなメッセージ性や将来性を高く評価されたのが大谷と小沢の両氏。2回目の投票で両氏の受賞が決まった。

 ■推薦された人たち

 青木豊、浅井裕介、荒川由貴、石井礼子、岩坪賢、大小島真木、大谷有花、小沢さかえ、樫木知子、衣川泰典、小西紀行、コバヤシ麻衣子、設楽陸、篠原愛、傍島義雄、田中千智、千葉正也、南条嘉毅、野瀬早苗、野田竜太郎、原游、藤原由葵、宮城翔子、向山裕、山本太郎、吉井宏平

 ■回答を寄せた推薦者

 石川健次、岡村多佳夫、尾崎信一郎、翁長直樹、加藤義夫、川浪千鶴、岸桂子、沢木政輝、三田晴夫、杉田敦、高階秀爾、鷹見明彦、野地耕一郎、拝戸雅彦、原久子、土方明司、藤田一人、降旗千賀子、本田代志子、松井みどり、松本透、村田真、森本悟郎、山口裕美、山下裕二、和田浩一、渡辺亮一

 (いずれも敬称略、50音順)

 ■絹谷幸二賞

 日本を代表する画家の一人で日本芸術院会員の絹谷幸二さんが08年、「若さゆえの冒険ができる世代の後進を応援したい」と、賞創設を毎日新聞社に呼びかけ、実現した。絹谷さんは1974年、具象絵画の登竜門だった安井賞(96年度の第40回で終了)を、史上最年少(当時)の31歳で受賞。大いに励まされたという体験がある。

 賞の対象は35歳以下の画家。国内で開催の展覧会に出品された、具象的傾向の絵画を選考する。基本的には筆またはそれに準じる画材・身体を用い、紙やキャンバスなどに描いている絵画。毎日新聞社が全国の美術館学芸員や美術評論家、ジャーナリストらに推薦を依頼。回答をもとに、3人の選考委員が2度の審査を経て決定する。賞金は本賞100万円、奨励賞50万円。

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 ■人物略歴

 ◇おおたに・ゆうか

 1977年、相模原市生まれ。多摩美術大大学院修了。2003年VOCA賞奨励賞。個展、グループ展多数=三浦博之撮影

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 ■人物略歴

 ◇おざわ・さかえ

 1980年大津市生まれ。京都造形芸術大、ウィーン造形美術アカデミー卒業。大阪・国立国際美術館で4月4日まで開催中の「絵画の庭」展で近作を発表=津村豊和撮影

毎日新聞 2010年3月7日 東京朝刊

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